2009年春から、函館にある北海道大学の水産科学研究院にやって来た中川聡さん。
その研究フィールドは、私たちには未知の世界・深海。
そんな深海で、中川さんは「極限環境微生物」を追い求める研究をしています。
中川さんがなしとげた驚きの大発見の裏側や、研究に対する熱い想いなどをうかがってきました。
子どもの頃から迷わず研究者の道へ
━━ 中川さんが、微生物※1の研究という道に進んだのはなぜですか?
よく学生に、「研究者になろうかどうか迷っている」という進路相談を持ちかけられることがあるんですが、実は僕自身は進路選択で迷ったことがないんですよ。なぜだかわからないけど、物心ついた時から科学者になりたかったんです。
たぶん、小さい頃に科学者列伝のような伝記を読んで、科学者は面白そうだなとずっと思っていたからかもしれません。学生時代は毎日研究をしていて苦に思わなかったし、純粋に楽しかったですね。学生時代は、本当に脇目をふらずに自分のやりたいことができる時間なんです。何かの本で、「一週間に100時間は実験しないとダメだ」というのを読んで、単純に「あぁ、そうなのか。」と思ってやっていました。寝ている時とご飯以外はほとんど研究の時間といったところでしょうか。今同じようにやれっていわれたら、「なんでやねん!」と思うかもしれませんが(笑)。
それと、昔から変わった生き物が好きでしたね。生まれ育ったのが滋賀県だったというのもちょっと影響あるのかもしれません。小さい頃はまだ自然が残っていて、毎日昆虫を採ったり、川に入って魚やエビを獲ったり、そういうことが普通にできたんですよ。
微生物の研究をやろうと決めたのは大学4年のときです。沸騰するお湯の中で生きていたり、塩酸の中で生きていたりするような「極限環境微生物」に出会い、これは最強に変わった生き物だ!と思いました。それがきっかけで、極限環境微生物の研究を始めました。
最初は、水深3000mという地上の約300倍もの圧力がかかるような場所や、350℃という高温の熱水がわいている場所で、彼らがどうやって生きていくのかということに興味を持ちました。そこからだんだんハマっていって、行き着いたところが「ゲノム※2」でした。ゲノムは要するに生物の設計図。それを調べると、微生物のからだの成り立ちや進化の過程もかなり分かってくるんじゃないかと思ったわけです。
深海の微生物にピロリ菌の仲間を発見!
━━ そのゲノム解析によって、中川さんは深海の微生物とヒトの胃がんなどの原因になる「ヘリコバクターピロリ」(いわゆるピロリ菌)という病原微生物が仲間であることを発見しましたね。これは、最初から予想していたことなのですか?
ええ。最初からなんとなくイメージとしてはありましたね。そもそも研究というものは、「落としどころ」が頭の中に最初からなきゃダメだと思うんですよ。漫才師が最後にボケを作って話に「オチ※3」をつけるじゃないですか?研究もそれと一緒なんです。始める前に頭にパッと「ここでオチたら勝ちだ!」と思うものが浮かぶわけです。
ちょっと専門的な話になりますが、胃かいようや胃がんの原因となるヘリコバクターピロリや腸炎の原因となるカンピロバクターといった病原菌は、「イプシロンプロテオバクテリア」というグループに属しています。1990年代、深海にもこれと同じ微生物のグループがいることが報告されました。しかし、ヘリコバクターピロリそのものと深海の微生物に、どのような繋がりがあるのか誰も証明できませんでした。
そこで、僕はヘリコバクターピロリなどの病原菌と深海の微生物をリンクさせられたら、これは「落ちる」なぁと思っていました。そこでゲノム解析をしてみたんですよ。
※1 微生物
肉眼で見ることができない非常に小さな生物。
※2 ゲノム
ある生物のもつ全ての遺伝情報のこと。生命の設計図。
※3 オチ
話の結末や笑わせどころ。意外性を持ち、人を驚かせたり感動させたりもするところ。


