となりの科学者さん

深海に「極限環境微生物」を追う!

子どもの頃の虫とりと同じ感覚

━━ ところで、深海の様子はどんな感じなんですか?

最高、ホントに最高です!! 2006年に初めてインド洋のロドリゲス三重点という地殻変動が激しいところで2500mまで潜りました。深海底までは1時間くらいかかったのですが、海底が見えてくる瞬間がものすごく美しかったです。ヘリコプターで地上を見ているみたいでしたね。しかも、そこはまだ人類が誰も目にしたことのないような場所。見えた時の感動は今でも忘れられないですね。やはり画像で見るのと肉眼で見るのでは、全然違いますよ。

特に迫力があったのは、ブラックスモーカーと呼ばれる重金属の混じった黒い熱水が噴き出しているところです。沖縄の海底にはよく行くのですが、こちらは重金属がすぐ落ちるため透明な熱水です。僕としてはインド洋の海底の方が好きですね。熱水が噴き出すところの周りには珍しい生物がたくさんいて、微生物と共生しています。例えば、「ゴエモンコシオリエビ」という白いエビは体の外部で微生物を増殖させて、これを食べて生きています。胸毛のような剛毛に微生物を共生させているので、私たちは「胸毛牧場」と呼んでいます(笑)。

とにかく、フィールドに行くのはとても興奮します。僕にとっては、子供のころの虫取りと、深海での微生物のサンプリングは、ある意味同じなのかもしれません。

ワクワクする研究を誇りに

━━ 中川さんは本当に研究が好きなんですね。

はい、自分は本当に幸せ者だと思います。大学生、大学院生…と、どんどん進んでいくうちに仕事に夢を持っていた同僚たちも、いつしか情熱を失っていきます。そして、今の僕くらいの年齢になると、「自分の仕事に誇りを持っている」って言いきれる人は残念ながらほんといないのが実態です。僕は本当に自分の仕事が大好きで、仕事に誇りを持っています。だから、そういう意味で自分は幸せ者です。

━━ その誇りとはなんですか?

人の役に立てる研究をすることが誇りだと思っています。最近学生と話していると、彼らは人の役に立つ研究というのは、新しい何かを見つけたり、つくりだすことだと思っているようです。新しい化粧品だとか、新しい薬だとか。

確かにそれらも人の役に立つことですが、それだけじゃない。面白いものを発見して、人間の知的好奇心を少しでも満たせる研究をするということ、僕はこれが人の役に立つことだと思っています。つまり、人をワクワクさせる研究をしているということが誇りということになりますね。

━━ 人をワクワクさせる研究をすることが人の役に立つんですね!

そうですね。でも、ただ面白い発見ができれば研究になるわけじゃありません。他の研究者がその成果を次の研究に活かせるように学術論文※8にまとめることも大事です。研究するにあたって税金をたくさん使っているので、それは本当に義務だと思っています。

有人潜水調査艇の「しんかい6500」は1回潜るのに約2千万円かかるんですよ。しかも乗るためには審査があって、選ばれた人しか乗ることができません。それだけ貴重な機会をもらえるのだから、世界を驚かせるような論文を書かなきゃダメだ、とひしひしと思っています。

次世代に伝えたいこと

━━ これからの目標は何ですか?

最終的なオチはまだわからないけれど、自分の研究は自分の人生の中で完結させたいですね。科学の研究というのは本当にいろんなことが自由にできるんですよ。わからないことはたくさんあるし、おそらく永遠に答えの見つからないテーマもあります。それが科学の魅力なんですけどね。そんな中でも、自分が生きている間に見通しがついて、一番面白いと思うものをやりたいですね。

あとは、「いい学生」を育てたいです。研究者はいい研究はもちろんですが、次の世代を育てることも義務の一つです。僕は初めて船に乗った時に、前の職場(独立行政法人 海洋研究開発機構)の上司にあたる高井研さんに興味をそそられたというか、モチベーションを上げてもらったんです。僕が大学院の修士1年生の時ですね。「あぁ、これでいいんだ。」と(笑)。それまで、研究者ってなんか硬くて地味なイメージがあったんですよね。でも、高井さんは思ったことをそのまま言うし、とても陽気な方です。そんな姿を見ていたら、自分も自分の興味がおもむくまま突き進んで楽しもうと思いました。

これまで先輩達に育ててもらったお礼はできませんが、代わりに、僕が学んだことを学生に伝えることはできます。こういう面白い世界もあるんだよ、という刺激をね。自分だけの力でここまでやってこられたのではないので、研究と教育を通して、たくさん恩返しをしたい。それで科学の世界をもっと盛り上げたいですね!

インタビューを終えて

噂には聞いていたけれど、爽やかでとても素敵な方でした!終始ニコニコしながらお話しをしてくださる姿を見ていると、本当に研究が好きなんだなぁと思いました。そんな中川さんのお話を聞いていると、なんだかこちらまで幸せな気分になりました。今回のインタビューはとても勉強になり、研究者のタマゴである私自身も考えさせられることが多かったです。私も、誇りに思えるような何かを早く見つけられたらなと思いました。中川さん、貴重な時間とお話をありがとうございました。(松本 伊代)

関連サイト

北海道大学 大学院水産科学研究院大学院水産科学院水産学部
中川さんが研究を行っている大学院です。
深海ワンダー|文部科学省
未来の潜水船にのって深海探検を疑似体験できます。
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インタビュー日:2009年4月23日

※8 学術論文
研究成果を論理的にまとめた文章。他の専門家による審査を受けた後、学術雑誌に掲載される。特に理系の分野では、学術論文にまとめて初めて研究として認められる。

インタビュー/文:松本 伊代(北海道大学大学院 水産科学院 海洋応用生命科学専攻 生物資源化学分野 修士課程)
撮影:金森 晶作(公立はこだて未来大学特別研究員/サイエンス・サポート函館コーディネーター)
漫画・イラスト:三上 いすず(フリーイラストレーター)

北海道大学水産科学研究院 准教授 中川 聡
プロフィール

北海道大学水産科学研究院准教授
なかがわ さとし

中川 聡

1976年生まれ、滋賀県出身。博士(農学)。
2009年4月に北海道大学水産科学研究院 海洋応用生命科学部門 海洋生物工学分野准教授として函館に赴任した。京都大学在学中より深海などの極限環境にいる微生物の研究に取り組む。前所属の独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、深海の微生物が胃がんや胃かいようの原因となる病原菌であるヘリコバクターピロリ(いわゆるピロリ菌)や、食中毒菌であるカンピロバクターなどの祖先であることを、ゲノム解析(遺伝情報の解析)で明らかにした。

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中川聡
北海道大学水産科学研究院 准教授
中川 聡

深海に「極限環境微生物」を追う!